最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1307号 判決 1950年11月30日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人北川一雄の上告趣意について。
判事小沢三郎が本件につき起訴前の強制処分として被告人に対し勾留訊問をなし勾留状を発したることにより、本件犯罪事実ありとの誤りたる認識を得、この認識が更に公判判事石塚誠一の先入観念となり、当然なすべき証拠調もなすことなく軽卒にも重大なる事実の誤認をなさしめるに至ったとの趣意書第一掲記の所論は根拠なき独断に過ぎない。のみならず所論は第一審の手続のみに関するものであり、覆審たる控訴審として第一審とは別にあらたな審理を遂げてなされた原判決には何のかかわりもない。論旨は採用の限りでない。趣意書第二、第三の所論につき按ずるに、一件記録によれば、原審裁判所を構成した判事小沢三郎が本件につき昭和二三年一〇月八日豊橋簡易裁判所判事代行として被告人に対し逮捕状を発し、次いで翌九日名古屋地方裁判所豊橋支部判事として刑訴応急措置法八条四号に基ずく検察官の請求により勾留訊問をなし勾留状を発したものであることは所論の通りである。しかし、旧刑訴二四条八号にいわゆる「前審ノ裁判又は其ノ基礎ト為リタル取調ニ関与シタルトキ」とは、上訴により不服を申立てられた裁判又はその裁判の基礎とされた証拠の取調等に関与したことを意味するのであるから、前示起訴前の強制処分に関与したに過ぎない(勾留訊問調書は本件では証拠とされていない)場合の如きは、もとより同号所定の除斥原因に該当しないこと勿論である。右と反対の見地に立つ所論には賛同することはできない。論旨は理由なきものである。
よって旧刑訴四四六条に従い主文の通り判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔)